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SHAREコミュニケーションプロジェクト概要

SHAREは、医師が患者さんに「悪い知らせ」を伝える場面で実践すべき態度と行動を、エビデンスに基づいて整理したフレームです。

SHAREとは
Supportive environment(支持的な環境)
  • 十分な時間を設定する
  • プライバシーが保たれた、落ち着いた環境を設定する
  • 面談が中断しないように配慮する
  • 家族の同席を勧める
How to deliver the bad news(悪い知らせの伝え方)
  • 正直に、わかりやすく、丁寧に伝える
  • 患者の納得が得られるように説明をする
  • はっきりと伝えるが「がん」という言葉を繰り返し用いない
  • 言葉は注意深く選択肢、適切に婉曲的な表現を用いる
  • 質問を促し、その質問に答える
Additional information(付加的な情報)
  • 今後の治療方針を話し合う
  • 患者個人の日常生活への病気の影響について話し合う
  • 患者が相談や気がかりを話すよう促す
  • 患者の希望があれば、代替療法やセカンド・オピニオン、余命などの話題を取り上げる
Reassurance and Emotional support(安心感と情緒的サポート)
  • 優しさと思いやりを示す
  • 患者に感情表出を促し、患者が感情を表出したら受け止める
    (例:沈黙、「どのような気持ちですか?」)、うなずく)
  • 家族に対しても患者同様配慮する
  • 患者の希望を維持する
  • 「一緒に取り組みましょうね」と言葉をかける

 

SHAREはがん医療において、医師が患者に悪い知らせを伝える際の効果的なコミュニケーションを実践するための態度や行動を示します。

我が国におけるコミュニケーションに対する患者さんの意向は、Supportive environment(支持的な環境)、How to deliver the bad news(悪い知らせの伝え方)、Additional information(付加的な情報)、Reassurance and Emotional support(安心感と情緒的サポート)という4つの因子で構成されていることが分かりました【1,2】。これらの頭文字をとってSHAREと呼びます。

がん治療医の先生方が困難に思われるコミュニケーション場面について調査した結果、以下のような状況でどのように伝えるとよいのか困ることが多いという意見が聞かれました。

 

がんという病名告知や方針説明だけでなく、積極的な抗がん治療を中止して体調を整えるケアに専念すること(Best Supportive Care: BSC)、予後告知、ホスピスへの紹介、心肺停止時に心肺蘇生を行うか行わないか(Do-Not-Resuscitate: DNR)などが挙げられました。さらに、近い将来動けなくなることが予想される場合に何かやっておきたいことがあるとすれば「今しかない」ということをどのように伝えるかも難しいという声もありました。

インフォームドコンセントを前提とする医療において、医師は患者に対して心身の状態と検査や治療といったこれから行われる医療行為について十分説明を行い、きちんと理解したことを確認し、患者の自由意思に基づいた合意が求められます。

医療者が病気の状態や医療行為について説明する際には、患者にとって望ましくない情報も提供されることになります。患者にとって望ましくない情報は「悪い知らせ」と呼ばれ、将来の見通しを根本から否定的に変えてしまう知らせと定義されています【3】。がん医療においては、難治がんの診断や再発・転移、抗がん剤治療中止といった知らせが悪い知らせとして挙げられます。

がん患者は診断後から短い時期にうつ病の有病率や自殺率が一般人口よりも高いことが示されている一方で【4,5】、医療者が患者に悪い知らせを伝える際に、望ましいコミュニケーションであると、患者の心理的ストレスを抑制できることから【6】、患者-医療者間の望ましいコミュニケーションの成立には、双方向で円滑な情報交換に加え、言葉だけでなく、表情や姿勢、身振りといった非言語的なメッセージが大きな役割を果たします。

例えば、目の前の患者が苦しそうに歪めた表情で「大丈夫です」と言ったとしても、言葉どおり「大丈夫」とは判断しないと思います。患者-医療者間のコミュニケーションでは、まずは言語的情報に注意が向きがちになりますが、特にネガティブな感情が伴う話し合いの際には、言語的な情報以上に非言語的な情報に十分配慮することが重要です。このようなコミュニケーション・スキルは、文脈を考慮せずに表出しても意味はなく、個々のコミュニケーション行動の意味を理解した上で、他者に認識されるように適切に表出する必要があります。

以下のページでは、それぞれの場面における適切なコミュニケーション方法について推奨される対応を述べています。

 

参考文献(抜粋)

  1. Fujimori M, et al. Psychooncology. 2005;14(12):1043–1051. doi:10.1002/pon.918
  2. Fujimori M, et al. Psychooncology. 2007;16(6):573–581. doi:10.1002/pon.1093
  3. Buckman R. BMJ. 1984;288:1597–1599. doi:10.1136/bmj.288.6430.1597
  4. Fallowfield L, Jenkins V. Lancet. 2004;363(9405):312–319. doi:10.1016/S0140-6736(03)15392-5
  5. 内富庸介. 日本臨牀. 2001;59(8):1583–1587.
  6. Yamauchi T, et al. Psychooncology. 2014;23(9):1034–1041. doi:10.1002/pon.3529