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キービジュアル

予後告知

予後を伝えるときのコミュニケーション(実験心理学的エビデンスに基づく指針)

 

推奨される対応

進行がん患者さんから予後を尋ねられ、臨床的に伝えることが適切と判断される場合は、 数値を含めて誠実に伝えてもよいことが研究から示されています。 その際は、不確実性への配慮と共感的な非言語行動(特にアイコンタクト)を組み合わせると、 患者さんの不確実性が減り、満足度・信頼・共感評価が高まる傾向があります。

  • 内容:中央値などの数値を用いつつ、個人差と幅を丁寧に説明する
  • 態度:アイコンタクト・穏やかな声・間の取り方など非言語で共感を示す
  • 補足:「誰にも正確にはわからない」旨を伝え、質問や希望を引き出す

 

チェックリストと進め方

チェックリスト

  • プライバシーと時間が確保された環境か(中断のない静かな場)
  • 数値(中央値)だけでなく、典型的な幅や個人差を併記できる準備があるか
  • 非言語の共感(アイコンタクト、姿勢、声のトーン)を意識できているか
  • 患者さんの知りたい理由や背景(生活上の調整、家族、仕事)を確認できるか
  • 質問を促し、要点のメモ化・要約で理解を確認しているか

進め方(Step 1〜4)

  1. 前置きと合意:「先々のことや見通しについてどれくらいお知りになりたいというご希望はありますか」「少し難しいお話になりますが、お伝えしてもよいですか?」
  2. 核心の説明:中央値と幅を示しつつ、個人差・不確実性を補足
  3. 理解の確認:「ここまででわかりにくい点や不安はありませんか?」
  4. 次の一歩:希望と備えの両立(ACPや支援窓口の案内)につなげる

言い換えのコツ(例)

  • 数値+幅:「似た状況の方の中央値は約2年ですが、1〜4年ほどの幅があります。」
  • 不確実性:「これは統計で、個人差があります。正確に言い切ることはできません。」
  • 希望と備え:「最善を望みながら、万一に備えることも一緒に考えていきましょう。」

 

研究の概要(エビデンス)

乳がん根治術後で再発していない女性105名を対象に、 「予後をはっきり伝える/伝えない」×「アイコンタクトあり/なし」の2×2条件のビデオを用いた 実験心理学的研究を行った。(転移再発が判明した患者と治療医の想定場面)。
主要評価:不確実性(0〜10)
副次評価:不安、コミュニケーション満足度、ACP意欲、医師への信頼、医師の共感、感情(怒り・悲しみ・恐れ・嫌悪・喜び・驚き)
 Fujimori M, Mori M, Ishiki H, Nishi T, Otani H, Uneno Y, Oba A, Morita T, Uchitomi Y.Explicit prognostic disclosure to Asian women with breast cancer: A randomized, scripted video-vignette study (J-SUPPORT1601).Cancer. 2019 Oct 1; 125(19): 3320-3329. doi:10.1002/cncr.32327

 

 

研究結果

予後をはっきり伝える条件では、伝えない条件に比べて 不安は高まらず、不確実性が有意に低下し、満足度が有意に上昇。 また、アイコンタクトありの条件は、なしに比べて 医師への信頼・共感評価が高く、感情反応も良好であった。

 

 

現場で使える会話テンプレート

医師の言葉例(推奨)

  • 前置き:「率直にお伝えしてもよろしいですか。難しい内容なので、一緒に確認しながら進めます。」
  • 数値+幅:「似た状況の方の中央値は約2年ですが、1〜4年ほどの幅があります。」
  • 不確実性の説明:「これは統計で、個人差があります。誰にも正確には言い切れません。」
  • 希望と備え:「平均より長く元気に過ごせるように私たちは全力を尽くします。もしもの備えも一緒に考えましょう。」
  • 共感と伴走:「不安なお気持ちは当然です。これからも私たちはそばにいます。」
予後の伝え方(原文例)
タイプ例文
はっきり伝える あなたと同じがんで、転移のある患者さんを集めた研究からわかることは、 50%の方が2年後も生きているということです。どういうことかと言いますと、 半分の方たちが2年以上生きられる一方で、残りの半分の方が2年以内にお亡くなりになります。 ある患者さんはもっと長く、4年くらい生きられるかもしれませんが、ある患者さんは半年くらいかもしれません。
はっきり伝えない それはわかりません。人によって異なりますし、これからの治療や体力によっても異なってきます。 だから、余命は誰にもわかりません。〇〇さんの病気は、将来いのちに関わる可能性のあるとても深刻な病気です。 私たちが確実に言えることはそれだけです。あなたと同じタイプのがんでもとても長く生きる方もいれば、 短い方もいます。テレビや雑誌でよく見る「あなたはこれくらいしか生きられません」といった意見は現実的ではありません。 一人一人についてはわからないんですから。。。

避けたい表現

  • 「わかりません」だけで終える(理由や背景への探索が欠ける)
  • 数値のみを断定的に伝える(個人差・不確実性への配慮不足)
  • 非言語の配慮が欠ける(目を合わせない、急かす、遮る)

 

まとめと次の行動

予後説明は、数値(中央値)+幅+不確実性の説明に、 共感的な非言語行動を組み合わせることで、患者さんの理解と納得、満足度の向上につながります。 質問・希望・生活上の調整を丁寧に聞き取り、必要に応じてACPや支援資源へつなげてください。