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キービジュアル

予後告知の実験心理学的研究

進行がん患者さんから余命を尋ねられ、統計的な大まかな数字が分かっている時、それを伝えるのが良いのかどうかは、医療者にとって悩ましい状況です。伝えることでショックを与えるのではないかという懸念もあります。でも本人が知りたい場合、実際上の理由があることが多いので伝えないと今後の生活上の調整にも影響するのではないか、そうは言ってもどのように伝えたらよいのだろうか、と様々な疑問が浮かびます。

乳がんの根治術を受けて再発をきたしていない女性105名を対象に、余命をはっきりと伝えるかどうか、アイコンタクトをとるかどうかどちらが良いかを調べたビデオを用いた実験心理学的研究が行われました。転移再発が分かった乳がん患者さんとがん治療医のコミュニケーション場面についてのビデオです。予後については表のように伝えました。

 

予後の伝え方

はっきり伝える

あなたと同じがんで、転移のある患者さんを集めた研究からわかることは、50%の方が2年後も生きているということです。どういうことかと言いますと、半分の方たちが2年以上生きられる一方で、残りの半分の方が2年以内にお亡くなりになります。ある患者さんはもっと長く、4年くらい生きられるかもしれませんが、ある患者さんは半年くらいかもしれません。

はっきり伝えない

それはわかりません。人によって異なりますし、これからの治療や体力によっても異なってきます。だから、余命は誰にもわかりません。〇〇さんの病気は、将来いのちに関わる可能性のあるとても深刻な病気です。私たちが確実に言えることはそれだけです。

あなたと同じタイプのがんでもとても長く生きる方もいれば、短い方もいます。テレビや雑誌でよく見る「あなたはこれくらいしか生きられません」といった意見は現実的ではありません。一人一人についてはわからないんですから。。。

予後告知の有無とアイコンタクトの有無を組み合わせ、2x2=4通りのビデオが作成されました。参加者は全員、4本のビデオをランダムな順番で視聴し、視聴前後に質問に答えました。主要評価項目は「不確実性」(0-10)で、副次的評価項目として不安、コミュニケーションへの満足度、アドバンス・ケア・プラニング(ACP)への意欲、医師への信頼、医師の共感、基本感情(怒り、悲しみ、恐れ、嫌悪、喜び、驚き)などが取られました。

その結果、予後をはっきり伝えるビデオでは、はっきり伝えないビデオより、参加者の不安が高まることなく不確実性が有意に下がり、満足度も有意に上がることがわかりました。ACPへの意欲については差がありませんでした。

一方、アイコンタクトのあるビデオでは、アイコンタクトのないビデオに比べて、医師への信頼や医師の共感が有意に高まり、基本感情も有意によくなっていました。

実験心理という間接的な手法ではありますが、進行がん患者さんから予後を尋ねられ、伝えることが臨床的にも適切と思われる時は、繊細に数字を用いて予後を伝えてもよいと考えられます。ただその時も、アイコンタクトをしっかりと取るなど、共感的な非言語的なコミュニケーションが非常に有効であることは留意しておくとよいと思われます。