予後告知、DNR、ホスピス紹介に関する意向についてのWeb調査
それでは予後を伝えるときにどのような台詞ががん患者さんから好まれるのでしょうか。412名のがん患者さんを対象にネット調査が行われました。がん治療医や緩和ケア医を対象にしたフォーカスグループや文献検索の結果、予後の伝え方について複数の概念に基づいた台詞を準備しました。そしてここの台詞について、がん患者さんに「1:全く好ましくない」~「6:非常に好ましい」の6件法で回答を求めました。
「あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、2年くらいだと思います。」(具体的な数値を言う。予測の不確実さや幅には触れない) |
「あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、2年くらいだと思います。平均的な方は、1年から4年くらいの経過と考えて頂いたらよいと思います。」(具体的な数値と典型的な幅を言う) |
「あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、2年くらいだと思います。最も良い場合としては、6年以上は大丈夫な方も10%程度います。しかし、厳しい場合として、6ヶ月という場合もないとは言えないことが10%程度あります。平均的な方は、その間をとって1年から4年くらいの経過と考えて頂いたらよいと思います。」(具体的な数値と典型的な幅、非常に良い場合/良くない場合を言う) |
「あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、年の単位だと思います。」(具体的な数値を使わずに大まかな期間を伝え、予測の不確実さや幅には触れない) |
「あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、再来年の桜をみられるかどうか(年を越せるかどうか)だと思います。」(具体的な数値ではなく、いつという時期を具体的に言う) |
「こればかりはわかりません。」(全く答えられないという態度を示す) |
「こればかりはわかりません。たしかにあなたと同じ状況の平均的な患者さんについてのデータはあります。でもあなたがどうなるかがわかるわけではないのです。」(全く答えられないという態度を理由と共に示す) |
「こればかりはわかりません。たしかにあなたと同じ状況の平均的な患者さんについてのデータはあります。でもあなたがどうなるかがわかるわけではないのです。そのようにお尋ねになられるには、いろいろな理由があると思うのですけれども、教えていただけますか」(全く答えられないという態度を理由と共に示し、一人一人のやっておきたいこと、気がかりなことに合わせて個別に一緒に考えていくことに繋げる) |
「あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、2年くらいだと思います。平均的な方は、1年から4年くらいの経過と考えていただいたらよいと思います。それでもこの目安は平均的なものであなたがどうなるのかが正確にわかるわけではありません。」(具体的な数値、典型的な幅と不確実さを言う) |
「あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、2年くらいだと思います。平均的な方は、1年から4年くらいの経過と考えていただいたらよいと思います。それでもこの目安は平均的なものであなたがどうなるのかが正確にわかるわけではありません。平均よりあなたが元気でいるように全力を尽くします。並行して、もし平均的な進み方をしたときよりも急なことがあった場合にも備えておくことも考えておくといいと思います。」(具体的な数値、典型的な幅と不確実さを言う。最善を望みながらも、備えはしておくことを提案する) |
その結果、余命を伝えないよりも伝える方が全般的に好まれることが分かりました。
分からないという場合も、その理由を伝えた上で、なぜ知りたいのかの背景を探索することが好まれることが分かりました。
また、伝える場合も、中央値のみではなく、典型的な幅(通常は中央値の半分から2倍)を伝えたり、さらに広い幅(中央値の1/4から3倍など)を伝えたりすることが好まれることが分かりました。さらに、余命だけではなく、「最善を望みつつ最悪に備える」(Hope for the best, prepare for the worst)という概念に基づく台詞を付加することが好まれることもわかりました。共感的な台詞(Reassurance statement)の効果が示されたことになります。
Web調査では、予後だけではなく、DNARやホスピス・在宅緩和ケアの伝え方についても調べました。DNR(Do-Not-Attempt Resuscitation (DNAR)とも呼ばれます)の伝え方では、単に延命処置を行わないことだけではなく、苦しくないように対応する、という症状緩和について伝えることが好まれることが分かりました。
「心臓マッサージなどの延命処置は行わないほうがよいと思いますので、そのようにしたいと思いますがいかがでしょうか」(医師がいいと思う方法を提示する) |
「心臓マッサージなどの延命処置を行わず、苦しくないように対応させていただくのがよいと思いますので、そのようにしたいと思いますがいかがでしょうか。」(医師がいいと思う方法を提示し、苦痛が和らぐようにする説明を追加する) |
また、ホスピス(緩和ケア病棟や在宅緩和ケア)を伝える時は、その理由を伝えた上で、紹介先の医療者に申し送りをしっかりと行うこと、何かあればいつでも連絡してほしいことを伝えるなど、共感的な文言を加えるほど、がん患者さんには好まれることが分かりました。
「緩和ケア病棟(ホスピス)か在宅ケアをご紹介しようと思います。」 (紹介することを言うが、目的や切れ目のないケアについては触れない) |
「緩和ケア病棟(ホスピス)か在宅ケアをご紹介しようと思います。この病院は治療を担当する病院なので、うちに来ても何もできないかと思います。」(紹介すること、何もできないことを言う。目的や切れ目のないケアについては触れない) |
「緩和ケア病棟(ホスピス)か在宅ケアをご紹介しようと思います。これから起きる体調の変化や症状に、適切に対応していただけます。」(紹介することを目的と共に言う。切れ目のないケアについては触れない) |
「緩和ケア病棟(ホスピス)か在宅ケアをご紹介しようと思います。これから起きる体調の変化や症状に、適切に対応していただけます。あなたのこれまでの治療や現在の病状について、ご紹介の先生にしっかりとお伝えしようと思います。」(紹介することを目的と共に言う。切れ目のないケアについて伝える) |
「緩和ケア病棟(ホスピス)か在宅ケアをご紹介しようと思います。これから起きる体調の変化や症状に、適切に対応していただけます。あなたのこれまでの治療や現在の病状について、ご紹介の先生にしっかりとお伝えしようと思います。もし何かお困りのことがありましたら、これからもいつでもご連絡ください。」(紹介することを目的と共に言う。切れ目のないケアについて伝えた上で、治療医との関係性が途切れないことも伝える) |
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